Suspension Control System

概要

車高調の減衰をスマホから変更をしたい!という思いつきからスタートしたプロジェクトです。TEINをはじめとして、いくつかの車高調メーカから車高調の減衰力を車内から調整するキットが販売されています。自分も以前はTEINの車高調を使っていたため、EDFCユーザだったわけですが、それはそれは反則級に便利なアイテムで、一度使うとEDFC無しでは減衰調整が考えられなくなるほどでした。現在、自分はZEALの車高調を仕様変更しながら長いこと使用しています。残念ながらZEALからは車内から減衰調整ができるキットは販売されていません。頭の片隅でEDFCがあればなぁと妄想はしていたのですが、いよいよ我慢ができなくなり自作することにしました。EDFCをZEALに流用することも考えましたが、車高調によって段数やクリック角度などに違いがあるため、流用では完全な範囲で減衰をコントロールすることは難しく、妥協が残ります。というわけで、オリジナルのSuspension Control Systemを作ってみました。興味がある方にほぼ材料費+αでお譲りできるようにキット化して公開しております。スイッチサイエンスにて委託販売中です。

こだわりポイント

周りの車仲間が使っている車高調を見ると、OHLINSやアラゴスタなど足周りに並々ならぬコダワリを持っている人が多いのですが、それらのメーカからは車内から減衰調整できる製品はリリースされていないようです(今のところ)。というわけで、あらゆる車高調に対応できる汎用的な減衰調整キットを開発しました(自分が欲しかったので作っただけですが 笑)。TEINのEDFCは専用コントローラを車内に取り付けますが、開発したシステムはコントローラに相当する部分はスマホで実現し、モータドライバとスマホが直接無線通信するので、車内への配線やコントローラの取り付けは不要で、非常にシンプルです。以下に配線の概要図を載せておきます。

使用するモータはTEIN、CUSCO、汎用モータから選択できるように設計してあります。TEIN、CUSCOのモータはモータ軸が六角に加工されており、サスペンションロッドのネジ径に対してもM10, M12, M14などバリエーションが豊富なため、流用しやすいかと思います。もちろん、3Dプリンタなどで使用される汎用的なステッピングモータ(NEMA17等)も使えるようにしてありますので、減衰調整ケーブルがついている車高調の場合にはそのケーブルを直接モータで回すような取り付け方法もアリです。

動作風景

説明よりも動作を見た方が手っ取り早いと思いますので、まずは写真や動画をアップしておきます。

ハードウェア

モータドライバへの配線は電源とモータだけです。中身の基板はこちらで開発したモータドライバ基板を使用しています。興味がある方は技術的な詳細はそちらをご覧いただければと思います。

電源、モータと接続するだけで、スマホと通信できるようになります。
ケーブルをギボシ加工してTEINモータを接続した様子。あとはACCを接続すれば接続完了!

モータドライバ取り付け

配線はモータとACC電源配線(+12V)のみとなります。電源は常時電源には接続しないでください (エンジンOFFでモータドライバへの電源が切断されないため、バッテリが上がってしまいます。) ACCの取り出しについてですが、リア側はシガーソケット、オーディオ、ヒューズボックスなどから簡単に取ることができるので問題ありませんが、フロント側は車種によっては、エンジンルーム内にACCが見つからない場合があります。実際に自分の車(R34)の場合はそれらしき配線が見つけられずに、車内からACCを一本引いてしまいました。。。 根気強く追えばなんとかなったのかもしれませんが、R34の場合、車内からアクセスが容易なので秒で横着を選びましたw ちまたにはワイヤレススイッチセットという製品もあるようなので、エンジンルームでのACC取り出しが難しい場合は、そんなアイテムも利用できるかもです。と書いて、リンクを貼っておこうと思ったら、現在は販売終了しているみたいです。類似品はあるかもしれませんので、参考までに貼っておきます。

エーモン/[1858]ワイヤレススイッチセット/製品詳細ページ
■LEDを手元でON-OFF ■ワイヤレスだからラクラク配線 ■最大出力:1A(ワイヤレス受信機) ■チャンネル切替機能付(混線回避機能) ■送信機:テスト用ボタン電池付属 ■微弱電波

モータドライバはスマホと直接通信します。アンテナ(ANT)は図中青点線あたりに配置されています。アンテナ付近を金属で覆ってしまったり、ボディーに密着させてしまうと、スマホとの接続が悪くなる可能性があります。シリコンやゴム製の素材で覆う分には問題ありません。感度が悪い場合、アンテナ付近の状況を確認してください。

モータ取り付け

本キットで一番の課題は、モータの取り付けですが、車高調純正の減衰調整ケーブルをそのまま流用すれば比較的容易です。モータジョイントなどをかましてモータ軸に接続すればOKです。自分の車の場合、リアはその方法で取り付けています。汎用モータは見ての通り、モータカバーもなく裸の状態となり車内専用なので、取り付け場所にも制限が多くなる点は注意が必要です。以下写真の青いパーツがモータジョイントです。

ネット拝借品ですが、モータジョイントです。”モータジョイント”と検索すると色々な種類が見つかります。

イモネジ ワンオフ作成

TEINやCUSCOのモータを使う場合はイモネジの加工が必要です。車高調によっても構造がマチマチですので、モータと車高調を適合させる必要があります(ロッド径、ネジピッチ、イモネジの長さなど)。ここで想定している車高調とは、ニードルでオイル流量を変えるタイプのものです。その場合、アッパー中心のロッドにイモネジが埋め込まれていて、右に締め込むとHard、左に緩めるとSoftに減衰が調整できるものが一般的です。TEINやCUSCOのように自社で減衰をコントロールできる製品をリリースしているメーカの車高調であれば、モータやショートパーツなどをそのまま流用すれば問題ありませんが、自分のようにZEALを使っている場合などでは、実物の採寸をしてワンオフで作り上げる必要があります。自分の車両ではフロントにM12サイズのTEIN旧モータを流用しています。そのイモネジ作成の過程を以下に紹介しておきます。

まず、(a)(b)のように純正イモネジを六角ドライバで回してHard-Soft間のコントロール範囲を確認します。測定の結果、純正イモネジはロッド端から16mm~18mmの深さでコントロールされていることが確認できました。モータはロッド端から10~13mmのところで回っていますので、このままでは噛み合いません。この場合、純正よりも2mm長いイモネジを作ってやればHard-Soft全範囲でコントロールできることがわかります。

というわけで、汎用的なM6のイモネジを買ってきて、切断して長さをZEAL純正+2mmに加工しました。

一般的な工具だけで加工しました。ボルトの固定はダブルナットと大型ペンチという横着っぷりですが、この状態で金属ノコギリで切断しました。あとはヤスリで形を整えて完了です。

ZEALの場合はイモネジの仕様がTEINと同じ(長さ違い)だったので非常に簡単だったのですが、車高調によってはM5などが使われており、そのままでは流用できない場合があるようです。以下、ネットより拝借した図面ですが、TEINやZEALはM6、P1.0、S=3mmですが、OHLINSはM5、P0.8、S=2.5mmのようです。OHLINSでTEINのモータを流用する場合には、
– M5イモネジをベースにモータ軸3mm → 2.5mmに加工する。
– M6イモネジをベースにM5、P0.8でネジを切り直す。
のどちらかの作業が必要になるようです。まずはお使いの車高調の仕様を確認してみてください。

余談ですが、TEINから至れり尽くせりのオプションパーツが出ていました。モータ周辺のクリアランスが取れない場合は以下の製品も有効かと思います。
この製品はTEINの車高調でしか使用できません。イモネジを回すわけではなく、軸を押していく構造のようです。
https://www.tein.co.jp/products/motor_ext_kit.html

モータ適合

モータ適合表となります。新品を入手するのはもちろんOKですが、オークションで中古品をリーズナブルに入手できます。TEIN旧モータなどは叩き売りされていることも多いので狙い目かもしれません。色々なモータが使用できるのが本キットの特徴でもあるので自分の車高調に適合するモータを選んでいただければと思います。ちなみに、フロントとリアのモータを別種類とすることも可能です。(左右は合わせる必要があります。)自分の場合、フロント:TEIN旧モータ、リア:汎用2の組み合わせで使用しています。その他、対応してほしいモータがあればご連絡いただければ確認させていただきます。

Vendorモータ型番モータ配線接続
Driver – Motor
Comment
TEINEDK5 (M10/M12/M14)3本赤 – ACC
黒 – GND
茶 – 青
– 赤
黄 – 黄
– 未接続
青 – 未接続
現行モータ
TEINEDK3 (M10/M12/M14)3本赤 – ACC
黒 – GND
茶 – 青
– 赤
黄 – 黄
– 未接続
青 – 未接続
旧モータ
CUSCOM144本赤 – ACC
黒 – GND
茶 – 青
未接続
黄 – 黒
– 赤
青 – 白
汎用1NEMA 17HS34014本赤 – ACC
黒 – GND
茶 – 緑
未接続
黄 – 青
– 赤
青 – 黒
標準トルク
汎用2NEMA 17HS84014本赤 – ACC
黒 – GND
茶 – 緑
未接続
黄 – 青
– 赤
青 – 黒
大トルク

NEMA 17HS8401の配線色が表と異なっているとお客様からご指摘を受けました(ご連絡ありがとうございます)。モータの製品ロットによって異なった配線色になっている可能性がありますので、色が一致しない場合は以下を参考に配線してください。赤四角で囲った色がモータドライバからの配線色になります。青-茶、緑-黄が制御のペアになります。それぞれのペアをモータのコイルに接続してください。回転方向が逆の場合、ペアの片方を反転すれば逆回転になります。モータ側の配線が不明の場合は、モータの配線間抵抗値をテスタで測ることでコイルの関係を見つけることが可能です。例えばA+(黒)とA-(緑)の抵抗値はほぼ0Ωになりますが、A+(黒)とB+(赤)は無限大Ωになるため、正しいコイル配線が判定できます。

ソフトウェア

現状、Android用Appのみのリリースとなります。Google Play StoreからDownload可能です。

Suspension Control System - Apps on Google Play
The App can control the damping force power from inside a car.

初期設定

初期設定で行うことは、以下の3点になります。初期設定(手順1~6)は一度行えばその後は必要ありません。初期設定は取り付け後、エンジンONの状態で行います。

  • モータドライバをアプリから認識させる。
  • モータタイプの選択する。(TEIN、CUSCO、汎用)
  • 車高調の情報を入力する。(Step数、角度)
手順1. 初期設定をSettings メニューから行います。
手順3. この場合、4台のモータドライバが検出されています。タップしたモータが回転し、取り付けられている場所が特定できます。長押しで取り付けられた場所を設定します(例 FL : Front Left)。取り付けられた場所は画面の”Assigned to FL”のように表示されます。
手順5. モータタイプ選択画面。本記事内、モータ適合をご確認ください。今回の場合、TEINの旧型モータなので、TEIN_EDK3を選択。

手順2. Motor Driver Settingを選択し、モータドライバを検索します。
手順4. 手順2の画面でFront Suspension Settingを選択します。Motor Typeからモータタイプを選択します (手順5を参考)。 次にStep AngleとStep Numberを入力します。この例では角度45度/段で20段式の車高調を想定しています。フロントの設定が終わったら、リアの設定(Rear Suspension Setting)も行います。
手順6. メイン画面に戻り、右上SWをONにすると初期化が終わり、減衰調整可能な状態になります。以上で初期設定は完了。

初期設定の手順を簡単にまとめた動画を以下に貼っておきます。

初期設定が終わると、アプリはその設定をもとにモータドライバの初期化を自動的に行います。初期化時には、モータのパワー調整とモータ軸位置調整が行われます。パワー調整では取り付けられたモータや車両のバッテリ状態によって最適なモータパワーが得られるようモータドライバの出力を適正化します。モータ軸位置調整については車高調のHard側(イモネジを最も締め込んだ状態)を検出してイモネジの位置合わせを行います。初期化が正しく完了すると、エンジンを切っても状態を記憶しているため、次回電源投入時(エンジン始動時)には自動的に位置合わせを行います。

手順1の画面のメニューの補足説明

  • Calibration
    再度モータ軸位置調整を行います。Full Calibrationではモータのパワー調整もやり直します。
  • Force Initialize
    再度モータドライバの初期化を行います。通常使用することはありませんが、接続がおかしい場合や別のモータドライバに接続する場合など強制的に初期化することができます。
  • Motor Driver Status
    モータ出力パワーや周辺温度(簡易)等、モータドライバの状態を確認できます。
  • Settings
    各種設定

使用方法

初期設定が終わったら、Appを好きな時に起動して減衰調整するだけです!もちろん、減衰調整後はAppを終了してもOKですし、車のACC電源に連動してAppを起動させておくことも可能です。自分の場合は車用スマホを常設してエンジンONでAppを起動させいつでも減衰調整ができる環境にしています。
以下に動画を貼っておきます。(モータドライバが試作品のため2本ケーブルが出ていますが、最終製品は一本になります。)

左の画面の黄色丸のSWをONにすると接続が開始されます。マニュアルでON/OFFするのが面倒な場合は自動接続機能もありますので、そちらを使用すると便利です。右の画面のGeneral Settingから設定できます。

  • Auto connection
    Appを起動した時に自動的に再接続します。
  • Auto connection during charging
    充電が始まった時に自動的に再接続します。
  • Display ON during charging
    充電中はディスプレイをONにします。
  • Keep display ON
    常にディスプレイをONにします。
  • Auto hide menu
    自動的にメニューバーを隠します。
  • Swap number
    例えば20段調整の車高調の場合、
    デフォルトは 1:Soft ~ 20:Hardですが、20:Soft ~ 1:Hardとします。
  • Start from Zero
    例えば20段調整の車高調の場合、
    デフォルトは 1:Soft ~ 20:Hardですが、0:Soft ~ 19:Hardとします。

動作確認状況

AndroidのBluetooth Low Energy(BLE)はOS Versionによって挙動が違うことが多く、過渡期であったOS7以前では動作が不安定な場合が多々見受けられます。AndroidでBLEを使うのであれば、ある程度成熟してきたOS9以上を推奨します。ちなみに、Nexusシリーズは比較的簡単にROMが書き換えられる便利なスマホなので、同じハードウェアでOS違いによる挙動を試してみました。Nexus6公式の最終OSのOS7では接続が不安定でコネクションに時間がかかることがありましたが、書き換えたOS10ではサクサクと安定しています。流石にNexus5ほどの世代になると、ハード的にも制約があるのか、OS8に変更してもコネクションに1分近く時間がかかりました。Androidの場合はソフト/ハードともに多種多様なので、少なからず相性問題は発生する可能性があります。今のところ、動作確認が取れているスマホは以下の通りになります。
GooglePlayStoreのポリシー変更により古いOSはサポート対象外になっていきます。本アプリもポリシーに準拠する必要があるため、予告なく旧OSをサポート対象外とする場合があります。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

Vendor型番OS Version発売時期動作確認Comment
MotorolaMoto g32Android122022/9
XiaomiRedmi 9TAndroid102021/2
OPPOA73Android112020/11OSアップデート後
OPPOA73Android102020/11
OPPOA5 2020Android102019/11
HUAWEIHonor9Android92017/10近日、Android9はサポート外
MotorolaNexus6Android7.1(official)
Android10
2014/12ROM書き換えをしているので参考程度
LGNexus5Android5.1(official)
Android8.1
2013/11ROM書き換えをしているので参考程度
コネクション不具合あり
HUAWEIHonor6Android5.1.12015/6×

注意点

  • ACCは+12Vのみに対応しています。
  • モータや電源の配線は、耐熱/耐水性が十分なケーブルを使用し、コルゲートチューブなどで保護してください。
  • 防水仕様ではありません。取り付けは雨水がかからないよう十分に配慮してください。シリコン製の防水パックなどで全体を包むか車内に取り付けを行ってください。
  • 精密機械ですので、高温は避けてください。タービンやエンジン直近など高温になる場所には設置しないでください。
  • 連続した振動により内部のパーツが破損する可能性がありますので、振動が大きいことが想定される場合には防振ゴムなどを挟んで取り付けてください。
  • 車載使用を想定した部品選定をしており、簡易的に高温/低温試験は実施していますが、大手メーカのような大掛かりな装置を使った耐久試験は実施できていません。そのため、ヒューズはかなりの安全マージンを取った値を使用していますので、使用状況によってはヒューズが切れる可能性があります。(ヒューズ切れ等の不具合が発生した場合には個別に対応させてください。お問い合わせフォームからご連絡願います。)
  • Bluetoothの無線通信を使用しているので、外乱によっては通信が途切れることが想定されます。その場合、減衰調整がリアルタイムに行えないことがあります。
  • Bluetoothやスマホを使用していますので、減衰調整に数秒程度の遅れが生じる場合があります。
  • スマホとの相性問題が発生する場合があります。動作確認ができているスマホはソフトウェア/動作確認状況をご確認ください。
  • 使用中、突然接続ができなくなった、発熱する、焦げ臭い 等の異常を感じたらすぐに取り外してご連絡ください。

購入方法

スイッチサイエンスにて委託販売中です。在庫切れの場合、問い合わせフォームからご連絡いただければ、納期をお伝えいたします。基本的に4台のモータドライバを使用することを想定していますが、1台のみでも使用することができますので、まずは動作確認してから必要数を揃えることも可能です。また2台でフロント/リアのみをコントロールすることも可能です。おかげさまでたくさんのお客様に取り付けいただいており、スイッチサイエンスへの在庫納品が遅れておりますが、ご連絡をいただければ優先的に対応させていただきますので、よろしくお願いいたします。

今後の妄想

スマホからコントロールしていますので、そのスマホの機能を最大限利用していきたいと思っています。スマホには加速度センサ、GPS、ネット接続など色々な機能が搭載されています。それらを使って例えば、特定の場所ではこの減衰セットに自動設定したい!とか、車速に応じて減衰を変更したい!などアクティブに減衰調整するようなアップデートも考えています(妄想しています)。
もう一点、iPhoneにも対応させたいところですが、、 開発リソースがなくて優先順位は下げていますが、ご要望があればご連絡いただければと思います。

2023/12 update
車速感応型減衰調整に対応いたしました。メイン画面をスワイプすると設定画面が表示されます。

コメント

  1. 藤井 より:

    スイッチサイエンスさんで欠品しがちでなかなか購入できません。直接の購入は可能でしょうか。

  2. 子供の科学 子供の科学 より:

    お問い合わせありがとうございます。納品が遅れており大変申し訳ありません。現在増産対応中となります。納期については直接ご連絡させていただきます。

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